出産祝いのお返しにいただいた品。

アンリ・シャルパンティエのクッキー。

美味。

関西にいた頃、アンリはまだ芦屋にしかなく、女子にそれはそれは大人気のケーキ屋さんだった。

それがいまや関東に進出して全国的に有名なお店に。

一つ上の学年だが年は三つ上のきづさんという先輩がいて、そこでバイトしていた。

きづさんはコワモテでどう見てもその筋の方にしか見えない人で、実際、高倉健さんの役柄のように曲がったことが嫌いで男気があってとてもケーキ屋さんでバイトしている風には思えない。勧められた酒を断ろうものなら血を吐くまで飲まされそうな雰囲気だったので後輩は誰も彼の酒を断れない。

でも飲み会なんかでは顔に似合わず突然アンリのケーキや焼き菓子を持ってきてくれる。

こっちは日々餃子の王将と天下一品のラーメンを楽しみに暮らすビンボー学生だったので、喜びに沸く女子を前にそのありがたみをいまひとつ実感していなかったが、美味しかったことだけは覚えている。

そのアンリのクッキーを久しぶりに食べたのできづさんを思い出した。

アンリにそのまま就職したと聞いたので、もしかしたら今もお店にいるかもしれない。切れ長の鋭い目で睨みを利かせながら笑顔で応対するきづさん・・・。その姿だけはいまだに想像できん。



アンリ

清水宏という昭和の大監督がいてつい最近DVDボックスが出た。『有りがたうさん』『簪』『按摩と女』に特典ディスク付き。

上原謙がすれ違う人々にひたすら「ありがとー」と声をかけ続ける奇特なバスの運転手を演じる面白い映画があると鉄割アルバトロスケットの打ち上げで出会った石井さんというCMディレクターに教えてもらった。そしたらDVDが出たのでアマゾンで買って観てみると、これがおもろい。

道を開けてくれる人たちにとにかく「ありがとー」「ありがとー」と言い続ける上原謙とわけありげな乗客。実際に上原謙にバスを運転させての全編ロケ。伊豆下田から三島までの乗り合いバスの車窓には昭和11年の景色が見事に映っていて、生活苦で売られていく少女とか道路工事に従事する朝鮮の若い女性とか、時代がしっかり映っている。

ヌーベルバーグ以前のヌーベルバーグといわれているそうで、ヨーロッパでヌーベルバーグが騒がれる30年も前にセットじゃなくてロケにこだわったり、台本より即興を重視したりとか、実際にそうらしいけど、でもそんな技法うんぬんより、わけありげな乗客役の女優がたばこをすう姿の美しさとか上原謙のかっこよさとか今観ても古く感じさせないパワーがある。あのときあの場所でしか映せないものがしっかり映っているんだと思う。

清水宏という監督は静岡の生まれで、松竹で小津安二郎の親友だったそうだが一般にはあまり知られていない。小津安二郎と年が一緒なので生誕記念モノ特集では小津にかなわない。でも最近『按摩と女』がスマップ主演で『徳市の恋』としてリメイクされるというので、あろうことかスマスマで清水宏の特集をやっていた。カタチはどうあれ再評価されてほしい。

尾鷲の路地にあった空き家の壁。

マーク・ロスコの技法を用いてベニヤ板で窓をふさいだ傑作。


ロスコは日本でも人気のあるモダンアートの巨匠。

川村記念美術館http://kawamura-museum.dic.co.jp/collection/mark_rothko.html

や軽井沢セゾン美術館で見れます。


巨匠の意匠が寂れた感じの港町に溶け込んでいた。

色使いも絶妙。

ロスコ

富士山をユネスコの世界遺産にすることは当然のことだという考え方というか風潮がどうもしっくり来ない。すでに十分すぎるほどお客さんは来ているし、ユネスコの力を借りなくても保全計画くらい作れるだろうと思うけど、そもそも世界遺産って何だ?というところから地元はあんまりよく分かっていない。だから「世界遺産になったら規制がかかって商売できなくなるから反対」みたいな意見も出てくるし、その辺りの商売っ気ある話しか話題に上らない。だいたい日本のシンボルともあろう山が世界自然遺産のときには国内候補にすらならなかった。自然じゃダメだったけど今度は文化遺産ならなれるでしょみたいな気配もなんとなくする。静岡・山梨県庁には世界遺産推進課というセクションがあるくらいだし世界遺産になるためにはそれなりのカネもかかるんだろう。すそ野にデカい軍事演習場があっても文化遺産になれるの?とか、分からんことが多すぎる。

『俗界富士』を撮った藤原新也さんに会った。

太陽を跳ね返すような真っ赤なコーラの自動販売機の向こうに富士山が見える。この姿こそ日本だと。

俗世間も富士山も同じように神々しいよねって。

世界遺産になってほしいと思った。


富士山コーラ

撮影の途中、たまたま立ち寄った居酒屋風焼きそばのお店。

もちろん美味しかったんだけど、よくある漫画なんかを置いている本棚をふと見ると、

こんな感じの品揃えになっていて、ご主人と意気投合したい気分になった。


しかし、

富士宮には焼きそば食べながらおもむろに中島敦、武田泰淳、藤原新也らを手に取る文化が存在する。

恐るべし。



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